高層ビルの上に広がるスラム街 近代都市香港のもう1つの姿

(CNN) 高層ビルの建ち並ぶ近代都市香港には、特徴的な建造物がもう1つある。老朽化したビルの屋上に廃材を使って増築された「掘っ立て小屋」だ。こうした屋上家屋は違法だが、住人の数は数千人に上るとみられており、高層ビルの上にスラム街を形成している。

こうした家屋の多くは香港のカオルーン地区にある。香港の規制ではこうした増築は本来認められていないが、実際は黙認されており、売買も行われている。香港では高級マンションになると1億香港ドル(約10億円)を超える物件も少なくない。また、今年発表された民間調査によると、家具付きの一軒家の取引価格は平均1325万香港ドル(約1億3000万円)となっている。

香港の不動産業者ジャニス・チャン氏は「こうした屋上家屋が違法なら、香港で100万香港ドル以下の物件を見つけることは不可能だ」と指摘する。

香港大学のアーネスト・チュー博士は「もちろん不動産業者は、屋上家屋などと記載することはない。書類上は、独特の景観やちょっと変わった特徴を持つ一室ということになっている」と説明する。同博士によれば、こうした屋上家屋によって、約4000人分の住宅需要が賄われているという。

では、なぜ、こうした屋上家屋が存在するのだろうか。
その背景には、1950年代から60年代にかけて多数の移民が中国から押し寄せたという経緯がある。屋上家屋に30年以上住んでいるという住民も多い。

香港では火災時の避難経路を2カ所確保することなど厳しい規則が設けられており、これに違反した建物は即座に撤去の対象となる。しかし、当局の通常の対応は、違法建築を最終的には取り壊すという旨の通知を行うだけだ。

こういったこともあり、違法な屋上家屋の住人は何十年にもわたって住み続けることができる。現在も住宅供給が不足していることから、当局は違法増築家屋の取り締まりを積極的に行ってはいない。

2001年には1万6000人あまりとされた屋上家屋の居住人口は減少傾向にあるが、2006年の統計によると1556世帯3962人が暮らしている。違法建築ではあるものの公共サービスを受けることができ、手紙は届くし、水や電気も使える。売買する際には印紙税が発生する。

12階建てビルの屋上家屋に住むルイさんは、自宅を気に入っているといい、「隣はいい人だし、何かあったら警察がすぐに来てくれるし、治安はいいし、下に行けば店がある。軽蔑する人もいるかもしれないが、わたしは絶対に自分を見下しはしない」と語った。