<金総書記死去>平壌停電、市場も閉鎖 市民ら強い緊張状態

北朝鮮金正日キム・ジョンイル)総書記が死亡したとされる時期から、首都・平壌で電気の供給が全面的に止まっていたことが24日、複数の平壌市民の証言で分かった。発表後には食料調達に不可欠な市場もすべて閉鎖され、「今後も再開されない」との情報も出回っている。街中では国家指導部で権力闘争が起きているといううわさが流れ、市民らは強い緊張状態に置かれているという。19日以降、出張のため中国を訪問した平壌市民の男性らが毎日新聞に明らかにした。

証言をまとめると、当局が金総書記の死亡日とする17日ごろから、市内のほぼ全域で電気が来なくなった。自家発電のない一般家庭では、死亡を伝える19日の「特別放送」さえテレビで確認できなかったという。男性は「こんなことは過去になかった」と話す。平壌市内の電力は主に二つの火力発電所から供給されるが、一つが修理中、もう一つも数カ月前から石炭の供給が滞り、それが枯渇した可能性が指摘できる。

 一方、市場の閉鎖は一般市民の生活を直撃している。治安当局は、市民が集まれば集会などにつながる可能性があるため、市場閉鎖を命じて警戒を強めているようだ。94年に金日成(キム・イルソン)国家主席が死亡した際にも市場は閉鎖されている。

 さらに市民の不安をあおっているのは、権力闘争のうわさだ。

 「金大将同志(後継者の正恩〈ジョンウン〉氏)の継承に反対する勢力が、金大将の無力ぶりを際立たせて権力収奪を図っている。反対勢力の背後には中国がいる」

 うわさの出所ははっきりしない。市民の一人は「平壌では今、庶民は己の生活の行く末を案じ、国家幹部は権力の変動に恐れ、気が気でない」と話す。

 市民生活が脅かされている中、23日午前から、金総書記の生前の指示に基づき、平壌市民に対するスケトウダラやニシンなどの魚の配給が始まったと国営朝鮮中央通信が報じた。正恩氏が主導しているとされる。ただ、配給規模などは明記されていない。

 金総書記死亡と正恩氏後継を一般市民はどうとらえているか。

 中国遼寧省に出張中の北朝鮮経済関係者は「大将同志が海外で学ばれたことはみな知っている。何かが変わるという期待感はある。ただ、将軍様の側近たちは変化に抵抗するだろう」と答えた。

 金主席が亡くなった時のような衝撃はないという。「将軍様(金総書記)は仕事ができなかったからね。向こうでは『首領様(金主席)の時代が一番よかった』という話をよくする」

 公式報道では市民が悲しみに暮れる様子が繰り返し映し出される。「朝鮮労働党がさまざまな準備をするので、拳を振り上げスローガンを叫び、涙を流すだけ。家に帰れば、日常生活に戻る」

 今後、北朝鮮は正恩氏体制に向けて動き出す。「首領様の死去後、骨董(こっとう)品の売買や西側の低俗文化を扱った人々が『資本主義的だ』として、平壌のあちこちで銃殺された。今後も同じことが起きないかと不安だ」【瀋陽(中国遼寧省)米村耕一】